『社会貢献曲線』 ~社会インパクトを最大化しようと思ったときに~
先日、「はたらく」と「社会貢献」というテーマで人前でお話をさせていただく機会がありました。
本業では企業向けにITインフラを提供するという、思いっきりB2Bな仕事をしていますが、ここ1〜2年は本業とは別に社会貢献活動として福祉施設向けにIT教室なぞをやったりしています。
IT教室の活動は、ガチIT講習、という感じではまったくなく…、ゆるく大らかに子どもたちに向き合うような雰囲気でやっています。本業では日々、スピードと効率を求められる中において、ゆったりと時間をかみ締められる特別な場所にもなっています。
人前で話をするということですので、これまでの経験を客観的に振り返りながら、自分にとってどんな経験になっているかということを見つめ直してみました。本業と社会貢献領域を行き来して体験したことや、感じていることを客観的に振り返るとても良い機会となりました。
その中でひとつ気付いたことがあります。
「持ってるスキルが社会へ与えるインパクトって、こんな曲線を描いてるんじゃないか?」
スキルが上がっていくにつれて社会へのインパクトも高まっていくけれど、直線的に高まるのではなく、頭打ち的な曲線。
本業の人たちは特定のスキルが成熟していて、右上の領域。
左下の領域は特定のスキルで見たらスキルレベルが浅い人たち。でも、ここの人たちの本業は別にあります。良い悪いの話ではなく、本業が何か?という話です。(たとえば、福祉施設の職員さんは、ITのプロというわけではないのです。)
また、この2つの領域が混ざることって少ないんだな…、とも思いました。
本業の人たちのいる領域
特定の分野でしのぎを削っている世界。世の中に少しでも新しい価値を、イノベーションを、より良いものをより安く、ということが存在価値。大きなブレークスルーが起きないかぎりは、改善、改善、またカイゼン、という積み重ねの領域ともいえると思います。
曲線の上がり方が緩やかなのは、十分な競争がなされているがゆえに、対応スキルが上がっても差別化が難しいということを意味しています。
また、この領域の中だけにいると、詳しい人たちだけに囲まれた世界で自分のレベルを位置付けてしまったりするんですよね。「上には上がいるなぁ。自分なんてまだまだだなぁ…」と。
多くの社会貢献活動で必要とされる領域
一方で、多くの社会貢献活動で必要とされる領域はこちら側。NPOやボランティア組織でまず挙がる課題は「最低限あたりまえにやるべきことが、あたりまえにできない…」ということではないでしょうか。
慣れている人なら数分でできることが、何時間も掛かってしまう、何時間もがんばったにも関わらず結局できなくてあきらめてしまう…なんてこともあると思います。
これは何も社会貢献活動に限った話ではなくて、「詳しい先輩に訊いたらすぐ解決した」みたいな話です。
曲線の立ち上がりが急勾配なのは、ちょっと知っているだけですぐ解決できるものがたくさんある、ということを意味します。
本業の領域と社会貢献の領域を行き来することの意味
交わることの少ないこの2つの領域ですが、本来は地続きのはず。2つの領域を行き来してみて感じたことは、自分の知識や時間は向ける先によって与えられるインパクトが違う、ということです。
日々なにげなく使っているスキルは、できることがあたりまえとされて、できないとマイナスポイント。自分に足りないところばかりに目が行ってしまいがちです。。
そんな中、あたりまえにやっていることを違う領域で使ってみるとまるっきり違う反応が返ってくる。すごくありがたがられる。知らなかった、すごい、とか言われる。こっちは「え?そんなにすごいことなの?意味があるの?」と思ってしまいます。。
でも、これも当然と言えば当然かもしれません。
日々なにげなく使っている、ということは、ウラを返せば、意識もせずになにげないレベルで使えているということであり、これこそがまさしくスキルなんだと思います。
本業だけの狭い世界で「まだまだ上がいるなぁ…」と思っていても、それは「上の中」とか「上の下」の話で、広く世の中的には「上」なのです。
知識や時間を使う先の領域を変えれば与えるインパクトもまた違うのです。自分の1時間の価値は等価ではないのです。
他にもメリットいろいろ
支援を受ける人たちのメリットはもちろん、支援をする側にもさまざまなメリットがあると感じています。
本業の人たちのメリット
(1) 自分のスキルを客観的に捉え直すことができる
(2) 広く社会の課題やニーズを知ることで、本業での視野が広がる
(3) 自分が社会に役立っている手触り感を得られる
(1) 自分のスキルを客観的に捉え直すことができる
先に書いた通りですが、自分があたりまえに思っているものほど、自分では自覚できないものです。自分の得意なもの、自分がこれまでに時間を掛けてきたもの、自分の持っているスキルを客観的に知ることができます。
(2) 広く社会の課題やニーズを知ることで、本業での視野が広がる
ITに関していうと、まだまだ100%万人向けにはできていないなと感じることが多いです。この操作が分からないのはこの人のせいじゃないよな…、IT側のせいだなと思うことが少なくありません。
本業界隈で自分たちが必要だと信じていることだけが、世の中で求められることとは限りません。
(3) 自分が社会に役立っている手触り感を得られる
仕事をして、誰かが対価を支払ってくれて、自分で税金を納めている、という時点で、社会に役立っていると思います。すごく役に立っていると思います。でも、利用の現場から遠ざかれば遠ざかるほど、また、効率主義のもとで仕事が細分化されればされるほど、役に立っているということを感じにくくなることもあると思います。
利用に近い場に触れることで、感じられることがあります。ITでいうと、ITがどんなふうに使われているのか?助かっていることは何か?困っていることは何か?を自分の体感として知ることができます。「ITってなきゃダメなんですか?ITがなければ起こらなかった事件とかありますよね?」などと素朴な疑問を投げかけられた日には、これからのITがどんな存在であってほしいか?と考え込まざるを得ません。。
日ごろ、B2Bの領域で働いていても、最終的にはB2CになっているのがIT。B2B2Cなんだなぁ…、と実感する瞬間です。
まとめ
以上、少しのスキルが与えられる社会へのインパクトは決して小さくないこと、本業の外で発揮したときに効果が大きくなること、を曲線になぞらえて捉えました。曲線上の本業と本業外を行き来することで得られるメリットについて書きました。(そして、この曲線を『社会貢献曲線』と勝手に名付けたいと思いますw)
ここでは会社員など組織人からの目線で書きましたが、組織の枠の外に出てみることは、自分と社会の接し方を考える貴重な機会になると思います。
最近は、本業スキルをベースとした社会貢献活動であるプロボノなんかもありますし、内容・対象ともに様々な活動を見つけることができると思います。ITの力を使っていろんな活動を知ることもできるようになっていますが、各地域ごとにある社会福祉協議会やボランティアセンターには、かなり強力な人力データベース・マッチングエンジン的な人もいたりします。「興味はあるけど、うまく言葉にできない…」という人は、人づてに辿ってみるのも良いと思います。意外な出会いや発見があるかもしれません。
まずは、気負わず、自分の興味の向くところに足を運ぶのがいちばん!と思います。ぷらぷらと組織の外を散策してみてはいかがでしょうか。
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